おおかみこどもの雨と雪 感想②
花という女性が母になる過程を丁寧にアニメーションで描く。
これが「おおかみこどもの雨と雪」の新しさだと思いました。
でも、これだけだと、非常に単純で、見ていられない。
最初にあらすじを読んだ時のように、地味で二時間も見ていられないような映画になっちゃう。
でも、自分はこの単純な物語を、ずっと集中してみることができました。
ここが不思議。
「なんで地味な物語なのに、ちゃんと見れるんだろう??」
ということです。
普通のそんなにかわいくもない一人暮らしの女子大生が、一人のかっこいい影のある男に恋をしていく。
(ネットで、花は顔がかわいいって言ってる人が結構いたけど、そうかぁ??そんな描かれ方してるかぁ?爺が一目ぼれしてたけど、あれ外見じゃないっしょ??)
そんな単純な話をなぜ見れるんだろう?
それを考えながらずっと見ていました。
見終わってからもあんまりわかってないんですが、
これじゃね?ということが三つ。
①おおかみおとこという設定に対する興味。
細田さんという方は、非常に戦略的な作品の作り方をする人だと思っています。
まず、作品の設定の時点ですごくよく考えられている。
例えばサマーウォーズはわかりやすい。
CGと手書きという現代アニメの超えなければいけない壁を、
電脳世界と現実世界とに分類することで、全世代の観客に簡単に越えさせる。
そこを行き来すること自体を面白みとする一方で、
キャラの説明・戦闘シーン・敵の恐ろしさ、
などの演出上の難題を設定を生かしてクリアしていきます。
このあたりの設定の作り方がまぁよく出来てる。
細かく述べると長くなりすぎるだけだけど笑
そして、今回の「おおかみこども」という設定。
細田監督が今回、母親を丁寧に描く、というテーマを選んだ際に、
勝算が見えないのは当たり前。
地味なテーマだし、アニメに向かないし、そもそも見る気しない。
僕がこの作品の概要を初めて知った時のように。
そこで、ぶっこんだのが「おおかみこども」という設定。
ここが、細田守のうまさ。
だって、
おおかみおとこを好きになって、その子供ができたら、
その子たちはどんな育ち方をするんだろう??
という興味を、ほとんどの人が持つから。
この興味で観客を引っ張りながら、
一方で母親の強さ、他とは変わらない母親あるあるで、
笑いを誘うこともできるし、悲しみを演出することもできる。
上手いですねー。
この興味を「作った」時点で、この作品のテーマが持つ一番危ういところは回避できたんじゃないかと思います。
②音楽がきれい
ピアノとヴァイオリンがきれいにつかわれてるなー、と。
序盤からきれいな曲のオンパレード。
明るくポップだったり、悲しみを強調してみたり。
あと、序盤の、話が途切れそうなシーンで、
上手く曲が引っ張るんですよ。
急に切れたり、盛り上がったり。
これで、普通のストーリーに緩急がついたっていうのは大きいと思う。
そして上手いなーと思ったのは、
花が初めて子供たちの暴れっぷりを知るシーンで、
初めてドラムスが加わったこと。
ずるいねー。あそこで次のステージに行ったもんねー。さりげないねー。
③恋人あるある、母親あるある
細田さんの真骨頂(らしい)、人物の正確な描写。
例えば、大学の授業で、さびしそうな好みのタイプを見かけたら。
人見知りの人がするしぐさを、これでもかって暗いリアルに描く。アニメで。
これだけで、僕はだいぶ面白かったです。
「あるあるー」と思いながら見ていました。
こういった、かなりリアルな人物描写が、随所にわたって行われているので、
最初にあったテーマの「花という女を丁寧に描く」ということが、
おおかみこどもという荒唐無稽なテーマをしっかりと支えていたと思います。
アニメのキャラクターがそれっぽく動く、というだけで、ちょっと期待しちゃうんですよね。
「自分の思い描くように動くのかな?」って。
導入の部分で、「あ、花は普通の恋する人だ」と思わせれば、あとは勝ちです。
あとは、観客に「さぁ、次は花はどう動くと思いますか?」という問いを投げ続ければいいんですから。
思った通りに動けば、「アニメのキャラが思った通りに動く!」と思ってうれしいし、
意外な行動をとれば「そうきたか!じゃあ次は?」という風に見えるわけです。
そして①で述べた「おおかみおとこが恋人だったら?」「おおかみこどもがうまれたら?」という問いに結び付けていくわけです。
これらは、アニメのキャラクターが、すごく生の人間っぽく動くことが重要です。
つまり、「あるある!!」という動きをさせ続けないといけないんです。
これは、多分すごく難しい。アニメのことはよくわかんないけど。
ジブリとかエヴァとかドラゴンボールとかを見てても、
アニメのキャラの動きでここまで「あるある」を感じたのはあんまりないです。
どうしても、ある程度のデフォルメをしてしまうし、それがアニメ(と漫画)の魅力だとずっと思ってたし。
でも、今回の作品は、逆を行っているように思います。
リアルな「あるある」を見せることで、共感と、興味と、アニメーションの魅力を確認しようとしている。
細田さんは自分の持っている武器をよくわかっているんだろうなー。
この3つの「上手さ」をもって、観客を引き込んだんだと思います。
作り手の「テクニック」大好きな自分からしたらたまらないです。
この「テクニック」は、時をかける少女のころからもっている細田さんの武器です。
今までは、物語を盛り上げる方向に存分に使われていたこのうまさを、
今回は、一人の女性が成長する過程に思いっきり使われた。
ここが気持ちいいんですよね。潔くて。
そうすれば、3年間をかけるに値する映画が作れると思ったわけですから。
自分の好きなものと、自分の作れるものが非常に近いんだと思います。
いいなー、細田さん。
今回はここまで!!